第七回「パテントトロールは絶滅危惧種となるのか」(その2)

前回、米国ではパテントトロールに対する逆風が吹いていると書いた。逆風は、国家レベルだけではなく、州のレベルでも吹き荒れている。例えば、バーモント州では2013年にパテントトロールの活動を制限するため「特許侵害の悪意による権利主張法」が制定され、侵害警告を受けた企業は特許権者(トロール)をこの法律でいう悪意の権利主張をしたとして訴えることができるようになった。悪意とは、侵害特許を特定しなお警告であったり、警告状で特許権者を特定しない場合などである。違反が認定されれば、特許保有者5万ドルの罰金が課せられる。似たような法律を制定している州は他にも見られる。

米国で良く知られたトロールの事件が、中小企業を狙い打ちしたMPHJ事件である。特許権者のMPHJは、自社のスキャナー関連特許が侵害されたとして、従業員が100名未満の中小企業数千社に特許侵害警告状を送っていた。事件が控訴裁判所まで上がった時に、MPHJの特許権行使は悪意の権利主張禁止法(州法)に違反する行為であり、裁判はバーモント州の裁判所で行われるべきであるとするバーモント州の主張が認められた。米国での特許問題は連邦裁判所で争われるのが常識である。それが州の裁判所で判断するという展開になり、多くの関心を集めた。この事件は最終的に和解で決着した。

このような環境変化に対してトロールも手をこまねいている訳ではない。環境に適応するためビジネス手法を進化させ、活動は鈍化していない。その最たるものが欧州に見られる。欧州では、現在、スマホをめぐる特許裁判がEU各国で行われている。裁判の当事者の多くがいわゆるパテントトロールである。ただし、欧州の場合のトロールは、ノキアやエリクスソンなど優れた技術開発力を持っていた企業の特許技術を買収して、それをまとめて一律にライセンスする「ポートフォリオライセンス」という新手のビジネスモデルを展開している。そのライセンスは、ライセンス料や対象特許も特許権者のウェブサイトで公開されている。彼らのビジネスは明らかに新種であり、これまでのトロールのうさん臭さは微塵もない。しかし、基本的に特許で稼ぐ「monetarisation」を目的とした事業モデルであることに変わりない。