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01/14/2004
TOPICS-04001

光ワイヤレス通信技術の新展開
─光ワイヤレス通信技術調査委員会の活動から─
当記事は、財団法人光産業技術振興協会(OITDA)のご好意によって掲載の許可をいただいたものであり、同協会のホームページならびに機関誌「オプトニューズ」に掲載されています。

搬送波として光を用い、これを空間に放射して行う光ワイヤレス通信は、その利点が長い間唱えられながら、最近までその実現形態はごく萌芽的な応用に留まっていた。近年の情報通信技術の進歩、通信需要の急激な増大、情報環境の進展に伴って自由度の大きい光ワイヤレス通信の実現に対する要求が強まっている。

当協会は新規事業の創造に係わるフィージビリティ調査の一環として2001年度から「光ワイヤレス通信技術調査委員会」を設置して、同技術を支える基礎技術とその広い応用範囲を網羅的に調査した。2002年度までの活動で数多くの調査結果と新たな知見が得られ、委員会としての提言を纏めて終了することが出来た。これらの内容は、関連各機関における基本プランや開発計画の策定に大いに資すると思われるので、本誌紙上で数回に分けてその概要を紹介する。

ビーコン通信

1. 光ビーコン

1.1 光ビーコンの概要

道路交通管理の分野で、光ワイヤレス通信は、警察庁で推進しているUTMS(新交通管理システム)におけるキーインフラである路側と車載機との双方向の通信手段として広く実用されている。

近赤外のLEDを光源とした光ビーコン(車両感知機能および車両との双方向通信機能を持つ)は、一般道路の車線中央上方に設置され、車載機と路側との間の双方向通信機能により、車両からのID情報等の送信、路側からはドライバに対してリアルタイムの交通情報等の提供を行うとともに、安全運転支援、緊急時対策、及び旅客・物流の効率化を含めた交通の流れの管理に活用されている。

各アプリケーションシステムについては別項で述べるが、現在、光ビーコンは全国で約3万基設置されており、今後も増設の予定となっている。

1.2 通信ゾーン

通信ゾーンは、アップリンク(車両から地上方向)とダウンリンク(地上から車両方向)で異なっており、アップリンクでは路面上1〜2 mの範囲で幅方向2.7〜3.5 m、進行方向1.6 m、ダウンリンクでは路面上1〜2 mの範囲で幅方向2.7〜3.5 m、進行方向3.7 mとなっている。これは、光ビーコンからの発光強度が一定以上の範囲、受光感度が一定以上の範囲を表している。(図1)

図1 光ビーコンの通信範囲

1.3 通信方式

符号化形式 マンチェスタコード
データ変調方式 パルス振幅変調方式
通信可能車両速度 0〜70 km/h
データ伝送速度 アップリンク 64 kb/s
ダウンリンク 1,024 kb/s
通信領域 アップリンク3.5×1.6 m(走行方向) (路上1m)
ダウンリンク3.5×3.7 m(走行方向) (路上1m)

(正方形の小窓2個は車両感知用)
(矩形の小窓2個は双方向通信用)
 
図2  光ビーコンの発受光部

2. 光ビーコンを活用した新交通管理システム

モータリゼーションの進展は人々の生活に多大な恩恵をもたらした。その一方で、交通事故・交通公害など、交通環境の悪化が国内外で深刻な社会問題となっており、こうした問題の解決のため、新たなコンセプトに基づくシステムが必要とされている。

警察庁の指導により社団法人 新交通管理システム協会が研究開発を推進している「新交通管理システム(UTMS:Universal Traffic Management Systems)」は、個々の車両との光ビーコンを通じた双方向通信により、ドライバに対してリアルタイムの交通情報を提供するとともに、旅客・物流の効率化を含めた交通の流れを積極的に管理することによって、「安全・快適にして環境にやさしい交通社会」の実現を目指している。

交通情報提供システム(AMIS: Advanced Mobile Information Systems)を初めとするUTMSの各種サブシステムは、カーナビ等の車載装置(光ビーコンユニットの搭載機種)と高度交通管制システム(ITCS:Integrated Traffic Control Systems)との間で光ビーコンを介して行われる双方向通信を基盤として成り立っている。

以下に、新交通管理システム協会が行ってきた各種システムの研究開発、実証試験を紹介し、ついで光ビーコンをキーインフラとしたシステムの現状と今後の展開を紹介する。

2.1 公共車両優先システム

公共車両優先システム(PTPS:Public Transportation Priority Systems)は、優先信号制御や優先レーンの設定により、公共車両を優先的に運行させるとともに、バス利用者などの利便性の向上を図ることを目的としている。背景には、現在の車両による交通手段の主流であるマイカーの利用から、大量公共輸送機関であるバス利用への転換を促進し、交通総量抑制と排出ガス削減による環境への配慮を図る目的がある。

表 PTPSの導入実績(例)

導入地域、プロジェクト 導入年 備考
北海道 札幌市 1995、1996年度  実証試験後、運用
長野冬季オリンピック
長野県 長野市
1998年1月 オリンピック期間中の交通管理支援
東京都 1997年度  
静岡県 浜松市 1998年度  
沖縄サミット
沖縄県
2000年7月 サミット期間中の交通管理支援
神奈川県 2000年度  
大阪府 大阪市 2000年度  
千葉県 2001年度  
京都府 2001年度  
図3 光ビーコンの設置状況

このシステムは車両運行管理システム(MOCS:Mobile Operation Control Systems )と共に、UTMSプロジェクトの先頭に位置付けられ、表に示したように既に札幌市での実証試験や導入を済ませ、他の多くの都道府県で導入され稼動している。

   バス・タクシーやトラックの走行位置などを運行管理者に提供することにより、効率的な運行を支援し、交通の円滑化を図ることを目的とするシステム。

2.2 安全運転支援システム

安全運転支援システム(DSSS:Driving Safety Support System)は、自動車の安全走行支援と歩行者の安全通行を確保し、交通事故の低減を図る目的で開発中のシステムである。

この目的の為に、交通管制インフラ(特に光ビーコン、交通信号機、情報板等)の高度化機能と自動車自体のインテリジェント化機能とを協調させたシステムを開発している。

交通事故の要素には、検出遅れ、判断ミス、運転操作ミスがある。交差点において、光ビーコンを用いて車に適切なドライバ支援情報を送信することが、効果的な事故低減策に役立つ。

ドライバに情報を知らせる方法としては、車両搭載機での警告音と音声メッセージを主としているが、警告表示板も併用している。

2000年には下記のシステムの実証実験を行ない、その有効性を確認している。

(1) 信号のない交差点における警告システム
(a) 一時停止規制情報提供システム
見通しの悪い交差点で、車両の接近を検知して、光ビーコンを介してドライバに一時停止規制情報の提供を行い、出会い頭事故の未然防止を図る。
(b) 出合い頭衝突警報システム
事故多発の交差点で、交差側の車両の接近を検知して、光ビーコンを介してドライバに車両接近注意情報を提供し、出会い頭事故の防止を図る。
(2) 信号のある交差点における警告システム
(a) 右折衝突警報システム
対向する直進車を検知し、光ビーコンを介して右折待ちのドライバに「直進車あり」の警告情報を提供し、右折対直進事故の防止を図る。
(b) 歩行者横断情報提供・左折巻き込み警報システム
交差点を左折する車両に対して、歩行者・自転車の横断情報及び二輪車の併走情報を光ビーコンを介して提供し、左折巻き込み事故の防止を図る。(図4)
 
図4 歩行者横断情報提供・左折巻き込み警報システム

2.3 緊急車両支援情報通信システム

緊急通報の迅速化については、別のシステムとして後述の緊急通報システム(HELP:Help system for Emergency Life saving and Public safety)が事案発生から通報までの時間短縮を目的として開発検証が行われている。

緊急車両支援情報通信システム(FAST:Fast Emergency Vehicle Preemption Systems)は、時間的にHELPシステムの後方に位置し、緊急通報が受理された後、緊急車両の現場への到着時間短縮及び緊急走行にともなう事故防止を目的としている。

1999年に東京都内及び千葉県内にて実証実験を行ったが、現在は、東京都、千葉県、石川県、大阪府及び岡山県にて導入・運用されている。実証試験の内容を以下に紹介する。

(1) 緊急車両優先制御
緊急車両に搭載された車載機から、道路上に設置された光ビーコンに車両ID等を送信することにより、緊急車両の進行方向の交差点において青信号で通過できるように信号機を制御する。これにより、緊急車両の緊急事案発生場所への早期到着を図る。
(2) 緊急車両接近警告
上記で検出された緊急走行時の車両情報を、進行方向の交差点付近に設置された車両用及び歩行者情報板に緊急車両の接近を知らせる。これにより、緊急車両の交差点における事故防止を図る。
(3) 緊急車両経路誘導
緊急車両に搭載された車載機と、道路上に設置された光ビーコンとの間で通信することにより、緊急事案発生場所まで渋滞、規制等を避け、最速で到着できる経路を提示・推奨する。

緊急通報システム(HELP:Help system for Emergency Life saving and Public safety)は、交通事故発生時に自動または手動により、自動車(携帯)電話などのネットワークを通じて、オペレーションセンタに事故状況が伝送され、警察などへの通報をより迅速におこなうことを目的としている。

交通事故発生時の救援機関への通報の現状での問題としては、@当事者からの通報が困難な場合がある、A通常の携帯電話からの通報では発生場所の特定が難しい、などの点が指摘されている。

現在、(株)日本緊急通報サービスが、本システムを運用しているが、このシステムでは、これらの課題に対応した次の機能を有している。

(1) 緊急事態発生時の通報時間短縮
緊急事態発生時に、手動ワンタッチ発信もしくはエアバック連動の自動発信により、緊急通報受理センターに携帯電話網を用いて接続する。
(2) 発生場所特定時間の短縮
携帯電話による通報の課題を解決するために、位置情報を送信し、緊急事態発生場所をデータで確認することにより場所の特定を容易にする。

2.4 交通情報提供システム

交通情報提供システム(AMIS:Advanced Mobile Information Systems)は、ドライバに交通渋滞、事故、所要時間などの交通情報を適切に提供することにより、交通流の分散を促し、交通の円滑化を図ることを目的としている。交通情報は、変化する交通渋滞の情報や目的地までの所要時間がリアルタイムでカーナビゲーション装置等に表示されるが、道路交通情報は、日本道路交通情報センターを通して、道路交通情報通信システム(VICS:Vehicle Information and Communication System)」に提供され、VICSセンターで編集・処理されドライバに伝達される。

VICSからカーナビへの情報提供は光ビーコン、電波ビーコン、FM多重放送の3メディアにより行われているが、AMISの情報(簡易図形による渋滞、所要時間の表示)は光ビーコンを介して提供されている。

2.5 歩行者等支援情報通信システム

歩行者等支援情報通信システム(PICS:Pedestrian Information and Communication Systems)は、歩行者(特に高齢者、視覚障害者、車椅子利用者など)の安全を支援することを目的として、信号の状態を音声で知らせたり、青信号の提示時間を通常よりも延長するなどにより、交通事故の低減を目指している。以下に、実証試験の概要を示す。

PICSでは歩道上に設置した赤外線ビーコンと歩行者が携帯するPICS携帯情報端末との間で赤外線通信により情報の授受を行なう。この携帯情報端末には次の2種類がある。

  1. 音声サービスシステム:目の不自由な歩行者の所持する端末受信装置に対して、歩行者用光ビーコンから交差点名称、バス停・公共施設などの位置情報や信号機の状態(青信号、赤信号等)を送信する。受信された情報は、端末装置から音声で案内情報を送出する。
  2. 画像サービスシステム:肢体・聴覚障害者、高齢者、車椅子利用者等の所持する端末表示装置と光ビーコンとの通信により、信号機の青信号時間延長操作や歩行経路案内・周辺情報などの画像表示を行い、歩行支援及び利便情報提供のサービスを行なう。

2.6 動的経路誘導システム

動的経路誘導システム(DRGS:Dynamic Route Guidance System)は、目的地まで最短時間で到着できる経路を推奨し、車の利便性を向上させるとともに、走行ルートを分散させ渋滞の解消などを図ることを目的としている。

本システムは基本的に車両車載機と路上の光ビーコン、中央装置とから構成されている。1993年よりの4次にわたる実証実験を経て本システムが優れた経路誘導性能を持つことが検証できた。本システムの車載機を搭載した車両をCDRG車(Centrally Determined Route Guidance)と呼び、実験での旅行時間を比較した。1998年に東京都内中心部から西部にかかる実験エリアでの走行実験をおこなったが、結果は以下の通りであった。

CDRG車は平均的に旅行時間が最短であり、ナビ付の一般車より12.4 %、ベテランタクシーより2.3 %早かった。また、光ビーコンから提供された予測旅行時間と、実際に要した旅行時間の関係では、実用上十分な信頼性があることが確認された。

しかし、的確な交通流配分が実現できる為には、双方向通信機能を有した車載機の充分な普及が必要で、その実現には時間がかかると予想される。車載機の普及の低い段階では車両個別の経路誘導を行ない、その利便性をもって車載機の着実な普及を図り、普及に伴って誘導の目的と誘導アルゴリズムを最終目的に近づけていく必要がある。

2.7 車両運行管理システム

車両運行管理システム(MOCS:Mobile Operation Control Systems)は、 バス、タクシーやトラックの走行位置などを運行管理者に提供することにより効率的な運行を支援し、交通の円滑化を図る事を目的としている。

既存の交通管制インフラである光ビーコンと、光ビーコンと通信可能な車載装置を搭載したバス、トラックなどが通信することにより、走行中の車両の個別IDや通過時刻などが光ビーコンに受信される。受信した情報は交通管制センタに送信され、交通管制センタから更に各運送事業者に送信されて車両の運行管理が可能となる。

2000年には、大阪市のゴミ収集車の走行経路監視システムとして導入され、本格的な運用がされている。このシステムは、24時間運用され、多数のゴミ収集車が住区内道路に集中する都市域の、交通騒音などの交通環境悪化の防止を目的とした搬入路線管理を行なっている。

【著者:田島 昭幸  新交通管理システム協会】



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