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TOPICS-01007 October  1, 2001
No.2  
 キヤノン株式会社

■ CANOBEAM 今昔物語

1832年3月22日、19世紀の偉大な詩人であるゲーテが永眠した。
「もっと光を!」が最後の言葉といわれる。
  ゲーテの死から約150年後、キヤノン中央研究所において、親しい人達から玄さんと呼ばれていた三浦玄明をリーダーとする数名のチームが生まれた。
合言葉は、「もっと光を!」だった。
  命の火が消え行く中で発せられたゲーテのその言葉を、そのチームでは、光をもっと有効利用し、新たなものを誕生させる。そんな気概とロマンを持った言葉に変えた。
そんな合言葉だった。
  研究開始当時、OA(オフィス・オートメーション)化の進展に伴ない、オフィスにOA機器がどんどん導入されつつあった。マルチメディアが騒がれ始めた。そんな時代だった。
そんな時代の中、三浦玄明は、今後増大する情報量、拡大するネットワークを感じ取り通信に光を当てた。光空間伝送方式の研究が開始された。
  地球上に満ち溢れている光、無限の光。しかし、研究開始時点で、その光が通信に有効に利用されているとはいい難かった。唯一、光ファイバ伝送が実用化されていただけだった。
光空間伝送は、第二次世界大戦後、10年くらいに渡って盛んに研究された分野であった。が、低損失光ファイバの出現により、光通信の研究分野はそちらに移ってしまい、光空間伝送はすたれてしまった。
三浦玄明が率いる研究者達は、すたれてしまった分野に技術の進歩という新たな光を当て、再度この分野で新しい技術の開発、新たなビジネスの創造というチャレンジを始めた。
「もっと光を!」その合言葉のもと、CANOBEAM物語が始まった。
ただ、最初はCANOBEAMという製品名称はなかった。[光空間伝送装置]という味気のない名前だけだった。
少ない人数での研究開発が開始された。何種類もの機器を試作し、様々な実験を行なった。
その当時の大きな課題の一つは、基礎的データを蓄積することだった。
かなり昔に研究されていた事柄のため、我々が使用できる文献やデータがほとんどないに等しく、自分達でデータを揃えなければならなかった。
摩訶不思議な現象があった。それを一つ一つ検討していく地道な作業を行なった。今から考えると、なんでもない事柄がその当時は不思議だった。
私達が光空間の研究開発を始めた当時の雰囲気を今はやりのNHKのプロジェクトX風に紹介してみました。随分、昔のことなので、多少の記憶違いはあるかもしれません。 ただ、我々開発メンバーにとって、三浦玄明氏という偉大な上司がいなかったら今の我々はなかったでしょう。

■ ここから少し趣きを変えて

研究所での開発の初期には、OA機器のワイヤレス化のモデルとして光空間伝送による装置を開発しました。その後、光空間伝送を長距離化することにテーマが移行していき、光空間通信の長距離化に絞って開発した機器が現在のCANOBEAMの原形になっています。このころから光ビームという言葉を仲間内では使うようになりました。

光は電波と異なり、非常に広い周波数帯域が使用可能です。この広帯域の特性を利用して、電波では伝送できない高速信号を光空間伝送により屋外で長距離伝送する。伝送距離は、数キロメートル。開発の狙いはこうでした。

ちょうどマルチメディアが騒がれ始めた時代で、高速大容量のデータ伝送に最適であることと、光空間での伝送実績も皆無であったことから、その様な機器が出来れば社会に結構インパクトがあるぞ。開発者全員がそんなことを思いながら仕事をしていました。ある意味、技術開発のきっかけは、時代の少しのニーズとちょっとした開発者の思い込みから始まった様な気がします。

開発を重ねる内に、1989年のジュネーブで開催されたITU-COM'89にCanon HD Digital Networkのコンセプトのもと、キヤノン製HDコーデックで圧縮されたHD信号の伝送用の機材として出展しました。蛇足ながら、当時の資料をあらためて読んでみると、この時の当社のコンセプトは非常によく練られたものでした。

やがて研究所(この頃には中央研究所から別の研究所に移っていた)から技術と開発のメンバー全員が一緒に放送機器事業部に異動しました。放送機器事業部に移ったことにより、我々の仕事は、今までの研究開発から製品開発に移行しました。放送機器事業部から製品として出した光空間伝送装置を総称してCANOBEAMと呼びます。まず放送局向けの光空間伝送装置の開発が始まり、それからネットワーク向けの光空間伝送装置を開発し、現在に繋がるDT-50、DT-30シリーズになっていきます。

CANOBEAM今昔物語とタイトルには書いておきながら、「昔」の部分が少し長くなったようです。今では、これを書いている本人が開発メンバーの中で最古参になってしまいました。それも少し影響しているのでしょう。

■ ここからはCANOBEAMの「現在」 
  
CANOBEAMのライバルも随分増えた。それだけ市場が広がったのだ。ネットワーク社会はどんどん拡大する。市場の要求は更に多岐に渡るだろう。 

新たな気概とロマンは市場をもっと大きくする。そんなフロンティアスピリットがある。
 
時は流れた。時代は移り、中央研究所の時代を知る者は2人だけになった。しかし、時が流れ、時代が変わっても、変わらない事柄がある。
永遠不滅の精神がある。「もっと光を!」の合言葉だ。
開発者一人一人の胸の中に合言葉がある。この合言葉は、CANOBEAMの魂になった。
現在、開発に若い仲間も加わり、メンバーは増えた。開発者が魂を込めたCANOBEAMの販売体制は世界に広がった。
時代は確実に変化している。
彼らは、視野を広げ、国境を越え、縦横無尽に世界を駆け回る。
我々のターゲットは、全世界のユーザーになった。

キヤノン(株)  
    放送機器事業部 放送機器開発センター 放送機器第一開発部
 担当課長 鈴木  敏司
    放送機器事業部 放送機器開発センター 放送機器第一開発部
 伝送機器開発室 今野  晴夫

光無線LAN製品のホームページ
http://www.canon-sales.co.jp/canobeam/index-j.html


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