屋外光無線は、対向する装置間の自由空間において光ビームに信号を乗せて通信する方式ですので、伝送路となる空間状態が伝搬する光ビームに影響を及ぼします。特に、霧(霞)や降雨、降雪といった事象は伝搬する光ビームを大きく減衰させ、通信品質を損なう場合も生じてきます。
しかし、現在供給されている製品は、ICSA「屋外光無線通信システム導入ガイドライン」に示されるように一定レベルの稼働率を確保できるように、気象要因による光波減衰を見込んでマージンを持って作られています。それでも、気象条件によっては装置の持つ許容光波減衰量を超える減衰が生じる場合が確率的に零ではありませんので、回線品質の劣化や断線となる場合もあります。
以下、気象条件による回線劣化の確率に関して、いくつかの例をもとに示していきます。
光波減衰を引き起こす気象原因は、霧や降雨、降雪等があり、その減衰量は数dB/kmから数100dB/kmに及ぶ場合があります。昔から光波減衰量の推定には色々な評価式が示されてきましたが、気象要因の均一性など評価し難い要因が多く、雨や雪といった事象毎に単純に計算できないのが実情です。そこでICSAでは、「ガイドライン」に示すように視程の累積分布から稼働率を推定する方法を推奨しています。
視程とは、水平方向の視認可能距離のことで、雨や雪などの気象状態にかかわらず光波減衰量の推定に利用できます。但し、気象台での観測は1日数回の特定時間の観測といった離散的データであるため、信頼性を高めるには、過去数年間に渡るデータの累積分布を必要とします。また、観測している地点数が少ないため、全国各地域を推定することは困難です。しかし、これまで各メーカーが各地で取得してきた実験データは、視程から求める推定稼働率の信頼性が正確であることを示していました。
下の図は、1996年から2000年までの5年間の東京と札幌における3時間毎の視程観測データの頻度分布を示しています。
視程距離の頻度分布 (東京 1996-2000) |
|
視程距離の頻度分布 (札幌 1996-2000) |
|
視程が1km以下の5年間の累積観測回数は、東京ではわずか24回 (0.188%) に対して、札幌では224回
(1.75%) となっています。この結果から、札幌では雪とそれに伴なう霧が大きく影響していることがわかります。
視程距離(V)と光波減衰量(σ)は次の式で示されます。
σ=13/V [dB/km]
視程距離が1kmの場合、上式より光波減衰量は13dB/kmとなります。
このデータを参考にしますと、許容光波減衰量26dBの装置で1kmの通信を行う場合、視程が500m以上あれば、通信可能になります。
総観測回数12,782回のうち、3回が500m以下でしたから、東京での推定稼働率は99.98% となります。同じように、札幌では500m以下になった回数が77回ですので、77/12,782=0.53% となり、稼働率は99.47% となります。また、通信距離が500mならば、13dBで同じ稼働率が期待できると推測できます。
次に降雨の影響について考えてみます。雨の場合も降雨強度と光波減衰量との間には幾通りかの評価式がありますが、霧雨や集中豪雨的な雨など事象によって性質が異なるため、一概に決められませんし、同じ事象が続く時間ファクターもさまざまです。これまでの経験上、次式が比較的よく当てはまります。
σ=4.9R0.63 [dB/km] [R:10分間降雨量(mm)]
例えば上式で10分間降雨量が10mmの場合、光波減衰量は約21dB/kmとなります。
下の図は、1996年から2000年までの5年間の東京と札幌における1時間毎の降雨データの頻度分布を示しています。
時間当たり降水量の頻度分布 (東京 1996-2000) |
|
|
時間当たり降水量の頻度分布 (札幌 1996-2000) |
|
総総時間数(43,800回)中、1時間あたりの降水量が10mm以上観測された回数は、東京で30回(0.068%)、札幌で27回(0.062%)です。また、時間あたりの降水量が10mm以下でも時間をまたがった10分間(例えば9:55〜10:05)に10mm以上降る場合がある確率を降水量3〜10mmの観測回数の1/4位と仮定し、時間ファクター1/6を乗じると、東京では30+31/6
(0.08%)、札幌では27+42/6(0.08%)となります。10分間降雨量10mm(光波減衰量
21dBm/km)とほぼ同じ許容光波減衰量(20dB)を持つ光無線装置を仮定すると、降雨による回線劣化確率はこの降雨の累積確率とほぼ同じと推測されることになります。
実際、東京において許容光波減衰量20dBの光無線装置の1kmでの稼働率は約99.9%程度となることが確認されており、この推定値に近い値が得られています。一方、札幌ではこの推定値は当てはまりません。これは、同じ雨でも、降水量は少なくても霧雨のように光波減衰の大きな場合もありますし、雪は溶かして降水量に換算されるため、降水量としては小さな値にしかなりませんが、光波減衰は大きくなります。このように、単純に気象状況の事象毎に計算するだけでは稼働率を正確に推定することはできません。そのため、気象条件に依存しない視程を光波減衰量 (稼働率) 推定の目安として推奨しています。
なお、降雨量に対する光波減衰量の目安を参考値として以下に示します。
小雨 (2.5mm/hr) ----- 2.8dB/km
中雨(12.5mm/hr) ----- 7.8dB/km
大雨(25.0mm/hr) ----- 12dB/km
豪雨(100mm/hr) ----- 28.9dB/km
以上のように、光無線装置の気象変動による回線劣化の確率は零ではありませんが、必ずしも雨や雪の時に使えなくなるわけではありません。むしろ、使えない状況は極まれであると考えた方がよいでしょう。装置に示される適切な距離で使用した場合、不稼動となる時間率は東京では0.1%程度となります。通信距離が短くなればさらに不稼働率は小さくなります。
ここまで説明しましたように、気象状況の光無線回線に対する影響は、観測資料からの推定値となっており、時間精度的に粗いものにならざるを得ません。
そこでICSAでは、現在都内において光無線装置と気象データ取得装置を組み合わせて、通信品質と気象データを常時モニタすることで、相互の関係をより明確化する実験を行なっています。今後、取得された実験結果は、ICSAのホームページ等で公表してまいります。また、その結果をガイドライン等に反映していきたいと考えています。