第一回「知財の今を語る」

■「製品デザインの侵害でスマホ売上げが召し上げ?」

皆さんの会社の製品が他社の特許を侵害していると裁判所が認定した場合、侵害に対する損害賠償の支払いを求められることになる。これは万国共通のルールであり、逃れる術はない。

しかし、侵害製品で稼いだ売り上げはすべて賠償金として支払えと命令されたらどうするか。これは会社の存亡にかかわる深刻な問題となりかねない。アップルとサムスンの間のスマートフォンをめぐる特許裁判で 5 年かけて争われたのがこの問題であった。

アップルは、スマートフォンに関する特許を持っており、サムスンのスマホ製品がアップルの特許を侵害するとして 2011 年に裁判を起こした。サムスンも受けて立ち、両社の裁判は世界 10 カ国で 50 件余に拡大した。2014 年に両者間に和解が成立し、米国を除くすべての国で裁判が取り下げられた。しかし、米国ではその後も裁判が継続した。

当初、地裁は 900 億円強(その過半がデザイン特許 3 件の侵害に対してもの)の損害賠償を認定し、それではサムスンのスマホの売り上げが吹っ飛んでしまうと話題になった。

この裁判は社会的にも注目され、結局、連邦最高裁でも取り上げられた。そこでの議論の中心は、侵害者の得た利益の総てを損害賠償額とすることの合理性であった。そもそも、デザイン特許侵害で稼いだ利益は総て賠償するというルールを決めたのが連邦最高裁であった。そのルールは特許法に条文化され、地裁や控訴裁はそれに拘束されてきた。

連邦最高裁は昨年 12 月、この解釈の不合理性を認め、120 年ぶりに自らの判例を見直す判決を下した。これでデザイン特許に関する特許法の規定が改正されることは必定となった。(デザイン特許でない)通常の特許の場合も、1990 年代までは部品特許であってもそれを組み込んだ製品全体の価値を根拠に損賠賠償額が算定されることがあり、巨額の損害賠償額となる場合があった。しかし、その後、そのような算定は不合理であるとされ、最近では、部品価格をベースにした算定となっている。