第五回「中国の知財」について

■「中国ビジネスの知財訴訟リスク」

中国は今や知財分野でも大国である(2016 年の統計では、中国は米国を追い越し、特許出願数世界一)。確かに、中国は模倣品の製造拠点であり公平な裁判が期待できないなどのイメージがあるのも事実。しかし、それは一昔前のイメージだ。今の中国では膨大な数の特許が申請され、膨大な数の特許紛争が裁判で争われている。最新の統計によれば、2015 年の特許出願の件数は約 97 万件(日本は約 32万件)であり、2012 年の特許訴訟件数は約 9680 件(日本は 155 件)である。これは、日本で何年もかけて習得した知識やスキルを、中国では短期間に集中的に行うことで習得していることを意味する。

知財裁判の判決には、国内企業を優先するものもまれに見られる。しかし、外国企業が当事者の場合には、裁判は北京や上海などの産業が発達した都市で行われることが多い。重点都市の裁判官はそもそも能力が高い上に、多くの件数をこなすことで知財制度への理解力も高い。特許技術や関連法の理解・適用に関しては、国際的に肩を並べるレベルにあると言ってよい。

注目されるのは、知財に対する独禁法の動きである。独禁法は、知財の行使には適用されないのが原則だ。しかし、特許を不正な手法で利用すると独禁法違反となりうる(支配的地位の濫用)。広東省高級人民法院は 2013 年、第 3 世代移動体通信システム(3G)の規格に必須の特許を所有している IDC に独禁法上の濫用があったという判決を下した(「ファーウェィ対 IDC 事件」)。海外では国内企業を優先した「ホームタウンデシジョン」と批判する向きもあるが、判決内容はそれほど偏っていない。また、2015 年には、無線通信分野での規格必須特許を一括してライセンスする「ポートフォリオ・ライセンス」が濫用に当たるとされ、米半導体チップメーカーのクアルコムに 60億 8800 万元(約 1150 億円)の罰金が課された。

知財の濫用を禁止する規定は、独禁法 55 条である。この規定についての運用指針が 2015 年4月に国務院(国家工商行政管理総局)から出されている。また、今年(2017 年)の 3 月には商務部(日本の経産省に相当)が濫用指針案を公表して一般から意見募集をした。中国では分野により行政省庁の担当が分かれており、それが中国での独禁法リスクの見通しを難しくしている面がある。