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第六回「米国におけるパテント・トロールの現状」について
読者の多くが「パテントトロール」という言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。トロールとは、他人から買い取った特許を使い、裁判で圧力をかけ、特許料を得るビジネスモデルを採る事業者のことで、自らは製造も販売を行わないため、産業の発展に寄与しないとの批判が多い。日本ではあまり表舞台に出ることはないが、米国では大きな社会問題となっている。
2011年の特許法改正(「AIA 法」)に、トロール対策を意図した規定が盛り込まれており、その一つが政府にトロールについての実態調査を求める規定である。その規定に基づき、2013 年に有識者による 100 頁余の報告書が発表され、オバマ大統領もトロール問題解決に向けた制度改革を示唆した程である。
この報告書によると、AIA 法の施行によりトロールの活動がやや鈍化しているという。それでも、2012年に提起された約5800件の特許訴訟件数の60%弱がパテントトロールによって起こされたというから、米国でのトロール問題がどれほど深刻であるかがよくわかる。しかも、トロールの訴訟は地元企業や国内企業に有利な判決を出すことで知られるテキサス州東部地区地裁に集中している。
しかし、今年になって風向きが変わってきた。まず、1 月にテキサス州東部地区地裁の裁判官が、パテントトロールに厳しい判決を下したからだ。この事件の原告はテキサス州内にペーパーカンパニー作り、特許侵害裁判を起こしていたが、裁判に負けると自己破産をして裁判費用の支払いを逃れようとした。しかし、裁判官は、州外の原告の追跡を命じ、不動産を没収して弁済することを命じたのである。この判決は、トロール対策に頭を悩ます特許関係者の耳目を集めた。
そして今年の 5 月、連邦最高裁判所は、「TC ハートランド事件」(TC Heartland LLC v.Kraft Foods Group Brands LLC)において、州内で会社登録を行い実質的な事業をしていなければその州では特許裁判を起こすことができないとする判決を下した。これにより、テキサス州以外のトロールは、テキサス州東部地区地裁で裁判を起こすことが難しくなる。特許法改正で息苦しくなったトロールに対して、この最高裁判決が追い打ちとなるのか、今後のトロールへの影響が注目されている。