第四回「日本企業のASEAN進出」について

■「ASEAN 進出に際しての企業の知財認識」

今年の 1 月に知財人材育成セミナーの講師としてミャンマーの首都ポピドーを訪れた。乗り換えのためヤンゴンで一泊したので、現地到着には二日がかりであった。前泊したヤンゴンのホテルには多くの日本人ビジネスマンがいた。エレベーターやレストランで日本語が聞こえてくるのには驚いた。日本企業のミャンマーへの関心の高さを実感した。

ミャンマーに限らず、ASEAN 諸国にはすでに多くの日本企業が進出しており、これからも進出が見込まれている。進出の理由もさまざまで、製造拠点として進出する企業もあれば販売市場として期待する企業もあろう。業種によって進出目的が異なり、現地の知財リスクも異なってくる。しかし、進出に当たり、そのリスクをきちんと考慮しているかどうかは疑問だ。

「ERIA Research Project Report」という報告書が 2015 年に発表されている。この報告書は、国際機関である ERIA が発行したもの(ERIA は、東アジアの経済統合のための政策研究および政策提言活動を実施することを目的と、2008 年にインドネシア・ジャカルタに設立された)。この報告書は、日本、中国、韓国、米国そして EU の企業のうち、ASEAN に子会社を 2 社以上もつ企業を選び、アンケート調査と聞き取り調査によって、知財問題がASEAN への直接投資にどのような影響を与えているかを分析している。

それによれば、日本企業は ASEAN 進出を決定する際、あまり知財問題を考慮していない。例えば、現地進出を決定する前に知財部門に現地の知財状況について相談があったのは 9社中 1 社で、5 社は進出の事前通知があった程度であり、3 社は全く知らされていない。しかし、進出後にはそれが大きな関心事項となっている。具体的には、商標、営業秘密そして特許問題である。因みに、最も大きな関心事項は進出前も進出後も「労働賃金」である。これに対し、欧米企業は、進出前に知財法制度の不備や権利行使のためのインフラ整備の問題を重視している。進出前の知財リスクの認識では彼我の差は大きい。

ASEAN 諸国は、海外直接投資を促すため、今、急ピッチで知財制度を整備している。冒頭に述べたミャンマーも、これまで知財法が無かったが、今年にも制定される見込みだ。制度整備は進んでも、問題はその実効性だ。これから進出を考えている企業は、知財リスクを事前に検討しておく必要がある。