第八回「ビジネスモデル特許考」

ビジネスモデル特許は2000年前後に世界的なブームになったことがある。その後にブームはしぼんだが、今でもそれは生きている。そのことを思い知らせるような事件が今年になって日本で報道され話題になった。

その事件とは、クラウド会計ソフトの自動仕訳機構を開発したfreeeが、マネーフォワードのクラウド会計ソフト「MFクラウド会計」を特許侵害で訴えたもの。Freeeの特許は2013年に出願され、2014年3月に特許になった。それを権利主張したものであるが、freeeの侵害主張は裁判所で認められなかった。

この事件が注目された理由に、ビジネスモデル特許をめぐる裁判の珍しさがある。コードなどの企業秘密が証拠開示されることを嫌うソフトウエア業界の体質も裁判忌避の一因であろう。二つ目は、今後の成長が期待されるネットビジネスの新興ベンチャーが、ビジネスモデル特許でライバルをけん制しようとしたことの珍しさ。この種の訴訟として有名なのが、起業間もないアマゾン.Comが、巨人「バーンズ&ノーブル」に対して、一件の「1-クリック特許」(ビジネス特許のさきがけとして有名)で立ち向かい、カルフォルニアの裁判所から仮処分を勝ち取った事例である。現在のアマゾンの地位は、この裁判がなければ無かったとも言われている。

報道によれば、今回のfreeeの侵害裁判ではマネーフォワードの会計ソフトの特徴である「機械学習」については争われなかったという。Freeeは機械学習に関するビジネスモデル特許をfreeeは持っていたが、今回の事件でそれを主張するタイミングを逸したという。もしそうだとすれば、それは訴訟戦略の問題である。

1件のビジネスモデル特許によってライバルの関連事業を止めることは難しい。それにも拘わらず、ライバルへのけん制効果を期待する場合は少なくない。有名なのが、JALがチケットレスサービスのビジネスモデル特許でANAを訴えていた事件で、結果としてJALは途中で裁判を取り下げざるを得なかった。ビジネスモデル特許の弱点を理解しないで権利行使したためにそのような結末になった事例として知られている。