第一回「原点は<東京オリンピック>」

1.「土木」と「建築」

よく「土建業」などと言われるが、日本においては、「土木」と「建築」は、別の分野である。実は英語でも「建築」は「Construction」だが、土木は「Civil Engeneering」となっている。つまり公共の建造物(橋梁、多目的ダム、トンネル、道路等)で、政府や自治体が主体で作るものは基本的に「土木」、主に民間で作るものは「建築」と言うことになる。土木事業の原資は、国家政府、地方自治体などの税金で賄われるが、建築物は主に民間のお金を使う。別の言い方をすれば、「土木」は景気などの動向に左右されにくいが「建築」は左右されやすい、という側面もある。土木は、政府など公共機関の予算で動くのに対し、建築は民間の会社の予算などで動く。簡単に言えば「お金の出所」で、「土木」と「建築」が分けられる、という側面があるということだ。

しかしながら、その基礎となる技術は同じものが多い。構築物を作るコンクリートなどに関わる技術もそうだが、たとえば検査技術で言えば、構築物の内部に潜むクラックなどを検査する技術は、同じものを使う。分野が「土木」「建築」と言うように違うものであっても、対象にするものは同じものであることが当然多いからだ。

2. 日本での「土木」は「東京オリンピック」が原点。ということは。。。

日本の土木のみならず、建築でもそうだが、一般的な日本での傾向として、戦後の鉄道の整備や高速道路の整備などの原点は1964年の「東京オリンピック」であることは良く知られている。また、東京オリンピックが日本の高度経済成長期と言われた時期の成長の発火点になったことも、多くの人が認める事実である。この時期は世界的な第二次大戦・戦後復興の時期で、世界中が好景気の時期でもあった。米国でも「黄金の60年代」という言い方をする。

その東京オリンピックから既に2020年で56年が経過している。振り返れば1964年の数年前から「構築物の建造ブーム」が始まっている。日本の戦後の土木工事のエポックの一つである「黒部ダム」は、1956年着工、1963年に竣工。竣工は東京オリンピックの前年である。東海道新幹線は、1959年に新丹那トンネルの着工で始まり、1964年に開業。首都高速道路は1950年代後半から徐々に着工・開通を広げていった。いずれの巨大土木プロジェクトも、高度経済成長期と重なった「東京オリンピック」が原点となっている、と言っても言い過ぎではない。いや、その工事の当事者から聞く話には必ず「東京オリンピック」が出てくる。日本のみならず、現在先進国と言われている地域の高度経済成長期と重なったとはいえ「東京オリンピック」は日本の土木にとっても、大きな「原点」の一つになった。

そして、その東京オリンピックから、今年で56年。トンネルはじめ、多くの日本の土木工事による構築物で想定されている耐用年数は、おおよそ50年である。つまり、想定された耐用年数を超えた構築物が、日本にはどんどん増えているのが現状だ。そのため、これまで行ってきた法定の定期点検や補修などで多くの問題が出てきているのみならず、構築直後では想定しえなかった老朽化による構築物の破壊、表からは見えない内部のクラックなどが、どんどん発見されている。しかしながら、それでもまだ「足りない」という状況になりつつある。この時期に「再び東京オリンピックを」という掛け声は、実は私達が普段当たり前に使っているインフラの多くを安全に使うためのきっかけを作る「イベント」でもあったのだ。

3. 構築物の破損箇所発見に新技術が注目されている理由

たとえば、橋梁などの構築物で新しいものは、最初から橋梁のたわみなどを常に調べるため光ファイバーなどが敷設されていることは、光技術関係の業界では良く知られている。しかしながら、光ファイバー出現以前の橋梁では、現在ある構築物に後で光ファイバー敷設を行うのは、やはり困難が伴うことは言うまでもない。また、いずれ耐用年数が尽きて壊すものであれば、現在の構築物に光ファイバーのような常時検査装置を適用するかどうかは、判断に迷うところでもある。橋梁のみならず、トンネルやダムなどの構築物では、これまで作ってきた構築物に手を加えず、いかに隠れているクラックなどを検出し、トンネルでのコンクリート壁面剥落などの事故を未然に防ぐか、という新たな技術に注目が集まっている。

これらの検査は、現在は熟練技術者に頼っているところが多い。熟練の検査技術者であれば、目視や微妙な感触や、周辺の小さな水漏れの様子など、全く違う現象をつなぎあわせ「このあたりに大きなクラックが隠れている」などの判断を行うことができることもあるが、しょせんは人間の行うことであり、「発見漏れ」もある。さらに、隠れたクラックの検査などに熟達した熟練技術者の数は少なく、日本全国全ての構築物を、となったときには、全く追いつかないのは目に見えている。つまり現状では、人間がやることには限界があり、構築物の検査はどうしても機械に頼らざるを得ない。そして、構築物の成り立ちをも知っている熟練技術者は高齢にもなっており(1964年に20才だった人は、現在76歳である)、多くは引退、あるいは鬼籍に入っている。ごくわずかしかいない。

そこで必要とされているのが「できるだけ非接触で、構築物などの内部に隠れた欠陥の発見をする機械」である。長く使われた鉄筋コンクリート構築物は多いが、その中の鉄筋の錆の進み具合などを知りたい、という要望もあるなど、実はこれらの需要は多く、かつ種類も多い。いよいよ「非接触構造物検査」の大きな一方法である「土木に光技術」の時代がやってきた、と言っても良い。

第二回へつづく