第二回 「土木」と「光技術」の「Both sides now.」

1. 「道路の穴」の話

土木の分野で最近特に注目を浴びているのが「非破壊検査」である。「非破壊」はそのまま「非接触」でもあることが多いことから、特に光関係の技術にかなり強いスポットライトがあたっており、期待もされている。いや「大きく」期待されている、と言って良い。

たとえば、道路補修などの現場では、道路の下の地下になにが埋まっているかを、地上からわかる機器を求められている。通常、道路工事は、道路の下を水道や電気などの配管があることが、特に市中では多いのだが、道路工事前の、道路工事の計画図面なども残っており、通常であれば、その図面を元に、道路は出来ているはずである。つまり、その図面が正しいのであれば、その図面にある水道・電気・通信などの配管などを避けて、配管の破壊などの事故無く工事をすすめることができる。しかしながら、かなりの場所で「図面通りに配管が行われていない」ことがあることがわかっている。道路工事をした後で、道路を掘り起こして、新しい配管が作られていることもあるだけではなく、そのさい、元の工事時の図面に修正などが入っていない、などの不備もある。あるいは元の工事のときに、何らかの理由で、図面と実態が異なっていた、などのこともある。そうなると、掘ってはいけない場所にいきなり掘削機が入り、配管を壊す、などの事故も起きる。そういう事故が起きると、調査が必ず必要となり、水道であれば、水道局など関係各方面への始末書などの提出、その承認、対策の策定、など、文書で行わなければならない場合も多く「長期間工事が止まる」事態も起きることがある。しかし、工事を止めても現場の工事会社は工事関係者に給金などは払わねばならない。結果として、多大な金額的損失が生じる、ということがあるのだ。その「損」はそのまま、行政の出す、元はと言えば税金である。であるから、日本経済のみならず、世界の戦後の経済が逼迫しようとしている昨今にあっては、こういった「経済的損失」の重なりは、多くの国民にとって、さらなる大きな問題となる可能性がある。そのため、現在、道路の補修工事などで道路を掘り起こす場合は、事前に過去の図面の調査はもちろんのこと、その場所を良く知る関係者のインタビューなど「念には念を入れる」必要があり、さらに工事コストがかさむ。しかし、それでも工事による事故は少なくない。しかし、補修工事などは行わなければならない。私達の便利で安心できる生活を支える基礎の多くが「土木」に支えられている。

わかりやすくするために、今回は私達の生活の道路の例を出したのだが、これが高速道路となれば、多くの人命に関わる大きな事故につながったりすることもある。鉄道、橋、など「土木」とはつまり、そういう「大きな責任を社会に対して負っている」分野なのである。

実は、筆者は昨年、アジアの成長地域と言われる場所に複数行った。実はそこで、恥ずかしながら、何回か転んだ。穴があってはいけない歩道に、日本では当たり前にされているはずのメンテナンスがされていないために穴が空いている。しかも、かなり長期間放置されたままであることが見るとわかる。子供を抱いて歩くと、前が見えないだろうし、乳母車でも危ないだろう。こういうことが当たり前にあるのだ。同じ形をした歩道ではあるが、また、同じ工法で作った歩道ではあるが、日本を離れると日本の道路の歩道だと思って歩いてはいけない。十分に先と下を見ながら、慎重に歩かないと、すぐに穴に足を取られる。そのとき「メンテナンスが行き届いている日本の道路がいかに安全なものであるか」を、膝の痛みとともに痛感した次第である。「日本」という場所は、世界でも稀な「安全にコストをかけている」地域である。その基礎は「土木」が支えている、と言って、言い過ぎではない。

2. 「非破壊検査」の生きる「道」

そこで、注目されているのが「非破壊検査」である。非破壊検査機器が調べると高速道路の橋脚の中に隠れている鉄筋の錆がわかる、などの装置が既にいくつか出来ているが、最近は、道路の下に「なにか隠れている」というものを探す技術が、あちこちで開発され始めている。そこに使われる技術は「超音波」「電磁波」の他「温度」なども使われる。ここには「光の技術」が活躍する場がとてもたくさんある、ということでもある。そして、今回の記事のここまでの話は「土木というものの(あくまで)一例」である。まだまだ、光技術をベースとした「非破壊検査」を必要としている場所は、土木にはまだまだある。しかし、現在の製造業への応用を多く考えることが多かった光技術の現在には、一部、問題もないわけではない。

3. 「土木」では「信頼できる技術」が重要

インターネットなどにつながった電子機器が、家庭にもあふれる時代となった。しかしながら、土木分野では特に屋外という場所も多く、公共のものを扱うことが主な仕事である「土木」の分野では、直接人の命に関わる構築物も非常に多い。そのため、その構築や検査に使われる機器の「信頼性」は特に重要視され、多くは検査機器の価格をも無視されることがあるほどだ。先日、地上の平面をコンクリート等で、無人で作るロボットの動作について、見学に行ったのだが、そのロボットだけで、開発は10年を超えている、という。見ればロボットの上に乗っているコンピュータは、10年という月日のために、少し古くなっている。ITの分野は「ドッグイヤー」と言われるほど、進歩が速いのでそのロボットに搭載されたコンピュータの「古さ」は、正直に言って、もともとIT屋の自分には、かなり印象深かった。しかし、それを入れる筐体、筐体から出てくるケーブル、電源装置、ロボットを直接動かすアクチュエータなども、部品レベルでの耐振動性が求められるばかりではなく、水やコンクリートをかぶっても正常に動作する必要があったり、日照りの場所に置かれたり、ときに高所から落ちるなどの事故も想定される現場もあり、機器で実現される機能そのものは非常に重要ではあっても、その機能を支える「筐体」「ケーブル」の、水漏れを防ぐ接続部の形状、など、実はハイテクの心臓部を支える周辺には、考えるべきことが山のように出てくる。それが「実用的な技術を使った製品」ということになり、土木事業に実際に使われる技術に初めてなる。「製品として現場で使えるかどうか?」。いくらハイテクの素晴らしい技術でも、装置、製品として要求されるものは、さらに厳しい対環境性能を求められる。これが土木の現場である。「光技術で土木に」というのは、「土木」「光技術」の2つの分野にとって、お互いに非常に重要なのだが、きめ細かな「実際の現場」にいかに適用するか?という技術も重要なのだ。バンパーの無い自動車を、誰が買うだろうか?

第三回へつづく