第五回 なぜ「土木は光技術の時代」なのか?

1. ITは「ハイテク」ではない時代

今の子供たちは、小学生でも、技術の塊と言ってもよい「スマートフォン」を持っている。また、毎日都心の会社に通うホワイトカラーのサラリーマンだけではなく、ダムの工事現場の作業員でも、家族との連絡は、スマートフォンなどを使うのが当たり前の世の中になっている。そのスマートフォンの中には、多くのハイテク技術が詰まっているだけではなく、そのスマートフォンの機能のほとんどは、電波でつながった基地局や、その基地局と本局は大容量・高速の光ファイバー技術が支えている。見えないところでも最新で高信頼の技術が惜しげもなく使われているのだが(だから、最新のPCよりも最新のスマートフォンのほうが高い買い物だったりするのだが)、現実にスマートフォンで家族との連絡を取り合うその人はその「最高の技術」の恩恵は受けていても、そのインフラを支える技術についてはもちろん知らない。自動車も、近い将来には自動運転車、電気自動車というテクノロジーが当たり前になると言われている。おそらくそれを使う近未来の私達の家族も、それがどのようにできているかを知らずに使うのだろう。

2. ITは「通信とコンピュータ」。根底には「デジタル化」

ITは「Information Technology」の略である。そして、その根底には「デジタル技術」がある。デジタル技術は、かなり昔からあったわけだが、実際に世の中に当たり前に出てくるようになったのは、1980年代頃だと記憶している。デジタル技術は、アナログ技術をどんどん駆逐していった。たとえば(突然具体的になるけれども)、熱電対の「リニアライザ」というのがある。アナログの技術で、部品を組み合わせ、温度にあわせて出る微弱な電圧値は温度のスケールに対して、後の電気回路で使いにくい「ノンリニア」なものだ。熱電対の出力電圧は直線的ではないので「リニアライザ」で、熱電対から出る電圧値を、温度のスケールに対して直線にして、出てくる電圧値を他の機器で電圧として使いやすくする。しかし、デジタルの時代には、この「リニアライザ」は、アナログの機器ではなくなった(古い機器は未だに使っているものもあるので、保守用にはとってあることがあることもある)。リニアライザは現在はデジタル化され、ICチップの中に入っている。高精度のA/Dコンバーターで熱電対の出力電圧をそのままデジタル化し、データ処理側で、その値をそのまま使うのが普通になった。ソフトウエアで必要であれば、だが、熱電対の出力電圧をソフトウエアで「リニアライズ」する。これが普通になった。また、デジタル電子部品はソフトウエアを動かすコンピュータのCPUからして、かなり安いものになったため、価格も劇的に低くなり、熱電対の経年変化や個別の特性違いなども、ソフトウエアで暫時キャリブレーションできる。一言で言って「より高度な機能がより安価にできる」ので、デジタル化が推進された、ということだ。はっきり言えばかつては「訓練を受けた人しかできない」というものが「訓練を受けていない人でも安価・手軽にできる」。これを実現したのがデジタル技術である。そして、かなり高度な技術の塊であった「通信」も「デジタル化」で、アナログ的なものは、ごく少なくなった。なくなった、とは言わないが、多くのところで、専門的なコスト高の技術が必要なくなったのだ。

3. 「デジタル化」は「革命」

なにも電気技術に限らないが、長く技術を勉強してきて扱っている人間にとって、自分の持っている技術が時間の流れとともに、陳腐化していくのに、耐えられない、という人もかなりいるだろう。「これで一生食えるかと思ったのに」ということだ。しかもある時、急激にそれが陳腐化する。資本主義の原理からすると「同じことが同じ時間でできるのであればお金がかからないほうがいい」のだから、その変化が緩慢であろうが急激であろうが、変わる時は変わる。しかし、アナログ技術全盛の「高度経済成長期」という「自分の若くて元気な時代」に、それを重ねてきた人には、なんとも忸怩たる思いも去来することだろう。しかしながら、自分とは別に、世の中は変わる。しかも、電気技術の世界は、デジタル化で完全にソフトウエア化し、変わった。これは電気技術における「革命」である。主役も変わったのだ。これは、政治で言えば、野党と与党が入れ替わるよりもさらに大きな変化だと言っていい、と、私は思っている。

4. 土木のデジタル化は光技術で変わる

電気技術は、今やあらゆるところで使われているが、特にわかりやすいのは、土木工事現場の照明だろう。電球が白熱電球からLED電球になり、今や電気店でも蛍光灯も見なくなるくらいになった。そして連載の第一回でもご紹介したように、東京オリンピックから50年を過ぎての「東京オリンピック2020」で、コンクリートの耐用年数の上限と言われている50年が過ぎた。重なるときは重なるもので、かつての土木工事の中心を担った世代は退職し、日本の経済落ち込みで、日本には外国人労働者という名前の「安価な労働力」も減ってきた。「熟練者」が消え「新人」も減り、残ったのは「継承できない数少ない技術」。ここに来て、土木の世界もデジタル化を余儀なくされている。そして、その最初に必要な技術は「補修箇所探索」である。これからの土木は「補修」が中心になり「新規の構築物」は減っていくのだから、この流れは変えられない。現在使われているトンネルや橋などの構築物では「できるだけ非破壊・非接触で」という注文がもちろんつく。「非破壊・非接触」で最適な技術は、光(温度などの赤外線も含む)技術である。ときによっては「超音波」や、広い意味での光でもある「電磁波」も入るだろう。つまり、これからは土木でも「デジタル化・ソフトウエア化された光技術」が中心の時代にならざるを得ない。光技術の次の世代は「デジタル化・ソフトウエア化」であり、それは特に私たちの生活のインフラを担う「土木」の場でより大きな社会的責任を負うのではないか?と私は思っている。

光技術の将来は、土木というフィールドで生きるかどうかにかかっている。

第六回へつづく